19.勇者1985闘いの火蓋
どーも丑寅です。
この星では、誰も彼もが心に傷を負っていて、インナーチャイルドとかアダルトチルドレンとかトラウマと闘っているらしい。
ヒトとは傷を負う生き物なのだ。
『自分だけじゃない』
そー思うと、立ち上がれる時もある。
丑寅は『どっこいしょ』というセリフつきにはなるのだが。
色々なニュースを知るにつけ、いかに自分が幸せにのほほんと暮らさせてもらったかを思い知るわけですが、それゆえの贅沢な苦労もありました。
【前回までのあらすじ】
丑寅は20代で脱出した暗黒の森に再び舞い戻る。
この試練を乗り越える新しいスキルを身につけ、武器を手に入れねば進めない。
かつての相棒に別れを告げ、ひとり挑むアドベンチャー・ムービー。
次々と手に入れた道具を手に、前に進むのみ。
【勇者を勇者にしたのは誰なのか】
『かつての書』
勇者の父が可愛い娘を溺愛したところから物語は始まる。
勇者ウシトラの前から全ての苦難を取り除くため、父は昭和のカーリングパパと化したのである。
ウシトラはなんの自覚もなく、ぼけらーーーっと生きていた。
食卓の全ての料理は毒味され、骨が取り除かれ、小さく細かくカットされた。
家から車への移動は抱き抱えられ、車に乗る前に車は十分に冷やされまたは温められた。
小学校に入っても、工作の宿題は父が完成させ、算数の計算は父が解き、理科の実験は父が行った。
中学に入ると、裁縫のパジャマは母が縫い、少し転んだからと言い訳をつけて車で送迎し、相変わらず魚の骨をとり、毒味をし、ニキビができたといっては東京から最高級の化粧品を取り寄せ、絵が好きと知るや遠くのアトリエに通わせた。
それは高校に入っても変わらず、内気な丑寅が音楽で人前で歌を歌えなかったといっては先生と相談。
数学が苦手と知るや知り合いの大学教授を家庭教師につけ、ボーイフレンドとのデートの送り迎えをし、夜道で悪漢に襲われないよう見張りをした。
【結果、丑寅はどうなったか】
丑寅は立派な『何も出来ないヒト』になったのだ。
丑寅は、気分で学校をサボり、家でケーキを焼き、嫌いな授業は保健室へいくか図書室へエスケープし、気ままに暮らした。
その結果、ハタチを迎えた時、世間の荒波にさらわれ、翻弄されていることにも気づく暇もなく、あっという間に無人島に打ち上げられていたのである。
びしょ濡れで呆然とする丑寅。
かつて丑寅はひとりでも困ったことはなかった。
いつの間にか、全ては終わっていて、
『ありがとう』と感謝すればよかったのである。
それがどーだ。
無人島には何もないのである。
なにもないというのに、自分にもなんにもないのである。
なんにもないなんにもない全くなんにもない♪
なんにもないところから、何かを生み出すことがハタチの丑寅が直面した現実であったのだ。
そんな錬金術師のようなことが出来るくらいなら、そもそも、この無人島に打ち上げられてはいないのだ。
ハタチの丑寅は、暗黒の森を見上げる。
高い木々がそびえ、黒黒とした森の奥には光も射さない。
丑寅は足を踏み出した。
ハタチの冒険の始まりであった。