1 闘う勇者 丑寅の誕生 秘宝『普通』を探して
【丑寅の誕生】
子どもの頃、十二支を覚えるのに唱えた呪文。
『ねーうしとら、うーたつみぃー』
『ねぇ、丑寅?』
『うーん?巽?』
だと思っていたのである。
言葉の感じからすると、丑寅に話しかけたタツミは丑寅とは長い付き合いの女の子で、丑寅は苗字で呼ぶくらいであるから、巽とは恋人ではないが、大切な友人である。幼なじみかもしれない。ミステリアスーーー♥
という色っぽい会話スタートで妄想が膨らんだというのに、なぜいきなり、『うまひつじさるとりいぬイー』と、ドタバタとドリフじゃあるまいし、言いにくい動物の羅列に変わるのか
子どもの頃は、そのセンスのなさに心から驚いていたのだ。
だいたいいきなりイーってなんだよ。犬イーだって。
オトナのセンスって意味不明と思った世間知らずの小学生が今や、どこからみても押しも押されぬ大人になったことが驚きだ。あっという間であった。
さして成長もしていないというのに。
ねぇ、丑寅?
と呼ばれる妄想の中で色っぽく生きることは既に不可能なのか?
もう私には『うまひつじさるとりいぬイー』と今日と明日を数えながらの毎日、ガシガシした現実をみることしか許されないのか?
『ねぇ、丑寅?』と言う巽の言葉には
むろん『ねぇ、ルパン?』と囁く不二子ちゃんの甘い残像が含まれるのだ。
ふーじこちゃん❤︎は20代だろう。
おそらくたぶんパハップス。
であるならば、私に『巽』を名乗る資格はない。
それくらいはわきまえている。
だってnear50だもの。第50世代だもの。
声だってだいぶドスがきいちゃったし。
せめて丑寅と名乗ろう。
道に迷った迷子のウシトラ、それが私の名前である。
20代で踏破したはずの
深き森の入り口で
黒々とした樹々の闇を恐る恐る覗きこみ
丸腰裸足で立っている。
第50世代の勇者丑寅の終わりなき旅が今始まる。
武器をくれ!!